先生、こんにちは。
茨木英光です。
今日は型を崩すということについて考えてみたいと思います。
ものごとを習得するときに「守破離」という言葉があります。
守とは師の流儀を守って習得を始めること。
破とは一定の習得の後に、自分が良いと思った型を作っていくこと。
離とは師の教えを離れ、独自の世界観を創出すること。
ですから型を崩すとは、「破」の段階にあると言えます。
例えば着物や華道など、目に見える道であれば特に型を崩してみたくなるものです。
帯の結び方に少し変化を出してみたい、花の生け方を誰もやったことのないものにしてみたい。
稽古を続けて行くうちに様々なチャレンジ精神が湧いてくるものだと思います。
しかし本当に基本ができていないと「崩すこと」はできません。
基本ができていないと「崩れ」になってしまいます。
崩れと崩しとは全然違っていて、美しい着こなしは長年培ってきた基本の上に成り立っています。
手技療法における基本、崩しとはどのようなことが当てはまるでしょうか。
私は「ダブルモーションテクニック」という名前で技術を発信してまいりました。
言葉の通り、関節操作を行う際に2つのベクトルを使うというものです。
DVDを見て、そこに独自の技術を加えてトリプルとして、ねじりの力を加えてみたとおっしゃった方が何名かいらっしゃいました。
コピー用紙に2つの切れ込みを入れて破ってみると3枚に分かれると思いきや、紙は2枚にしか裂けません。
決して3枚にはならないのです。
つまり2つの切れ込みであっても裂ける力点は1つなのです。
ねじりの力を加えると、力点はフラフラと移動してしまいます。
そうではなく、力を1点に集めるから関節は軽く動いてくれるのです。
また、腰の椎間関節を触診するときは母指で押圧すると、ひとつの膨らみと感じますが、椎間関節は2つの椎骨の上下関節突起から構成されていてひとつの指で別々のものを触っているという解剖学的な知識が必要となってくるのです。
それをテクニック偏重になってしまうと、椎間関節を触ってみても「こり」や「硬結」だと思ってしまい、やみくもにほぐし始めてしまうのです。
これではいつまで経っても関節の動く感触は分からないままとなってしまいます。
始めに医学書を読んで解剖学を学び、その図を見ながら触診をして、椎間関節の膨らみは、確かに2つの骨で構成されていると確かめる。
これが基本の型、「守」となります。
そこを飛ばして珍しいテクニックを追い求めても、結局は自分の中に落とし込むことができずに使わなくなってしまいます。
これはもちろん僕にもそのまま当てはまりますから、常に基礎医学の勉強は欠かせません。
そして茨木の教材を見てくださっているみなさまも、僕の言っていることを鵜呑みにしてはいけません。
茨木がこう言ってたから、こう押さえてみる、これはごく初心者が行う姿勢で「茨木が言ってたことは本当なのだろうか」と疑ってかかる必要があります。
解剖学書を調べて、誰かに施術をしてみて、それで茨木が言っていた通りになったとしたら初めて自分の腑の中に落とし込むことができるのです。
ここまでが「守」なのです。
ですから、守とは、思っているよりもずっと広い範囲であり、それを超えていくにはかなりの時間と労力が必要となります。
どこかでセミナーを受けてきたら、家に帰って医学書をすぐに開いて調べていますでしょうか。
詳しい医学書を複数持っていますでしょうか。
それをするだけで学んできたことが何十倍も広がって見えてきます。
視野がパーッと広がることを実感することができます。
守とは退屈な作業かもしれませんが、そこを丁寧に続けていくと一気に世界観が変わる時がやってきます。
そして「崩し」を楽しんでみて下さい。
ありがとうございました。
茨木英光