みなさまこんにちは。
今日は興味深い症例についてご質問をいただきましたので
みなさまと共有したいと思います。
【質問内容】
54歳男性
高等学校 教諭
162cm 55kg
滲出性中耳炎(右耳)人気YouTube動画の真似をして、
強く両耳を引っ張ったときに
右耳の奥でプツッという感じがあり、
それ以来水の中に潜ったようにこもっている。
朝起きてすぐはならないが、30分もしないうちに耳がこもり始める。
半年くらい前になって、耳鼻科に行った。
滲出性中耳炎とのことで水を抜いたが
すぐたまるから繰り返すばかりで、こもった感じは治らない。
ここで注目すべきは
耳を引っ張った時に「プチッ」と音がなっていることにあります。
それは何かが切れた音です。
では鼓膜が切れたのかというと、そうではないと思います。
鼓膜でしたら水の中に潜ったような感覚ではないはずです。
それに耳鼻科で滲出性中耳炎という診断も出ないと考えられます。
またそれ以来、浸出液が出てきているということですから、
おそらくアブミ骨が前庭窓から
部分的に引き剥がされたのではないでしょうか。
鼓膜の奥には耳小骨が3つ並んでおり、
一番奥のアブミ骨には前庭窓という膜があり、
その奥には骨迷路が存在しています。
骨迷路の中には外リンパ液が満たされており
これが蝸牛小管という細い管で頭蓋内と連絡しています。
また、脳脊髄液も外リンパ液も
ナトリウムとカリウムの比率も同じく
10対1となっています。
なので内耳を満たしている外リンパ液は、脳脊髄液そのものなのです。
ナトリウムが多いということは、
しょっぱい汁が鼻の奥からツルーっと降りてくる感じがすれば
それで前庭窓が破れていることで間違いないでしょう。
内耳に詳しい先生が診察すれば
外リンパ瘻という診断名が付くはずです。
ここで手技療法家として大事なことは
腰であれ、膝であれ、傷めた時に
プツッと音を聞いているということの有無です。
ぎっくり腰や膝の怪我などで
このプッツン音を聞いたと患者さんが言うならば
やはりMRIを撮ることをお勧めしたほうが良いでしょう。
何回も施術をしても効果が無いなら、尚更です。
ここで自然治癒力やイネイト・インテリジェンスの話をしても
患者さんにとっては意味を持たないことになります。
なので、この患者さんに対する適切なアドバイスは
「耳を引っ張った時にプツッと音がなっていますし
それ以来耳がこもった感じがしている
そして半年治っていない。
これは外リンパ瘻の可能性がありますので
この病名で検索して、手術をしてくれる病院を訪ねたほうが
良いと思います。
病院が多少遠方でも、そのほうが解決の近道かと思います。」
と僕だったら言うでしょうか。
自分がこの症状になったら
外リンパ瘻の手術をしてくれる病院に行きます。
症状を聞いて、体の中で何が起こっているのか
それを見分ける学問、病態生理学の力を付けていくことの方が
テクニックを学ぶよりも大事なことです。
単にテクニックのやり方を学ぶだけでは
自分の技術として身につきません。
体の中で何が起こっていて、それをどうするのか
その原理が分かってくると、
テクニックは自分の中から生まれてくるものなのです。
今回は外リンパ瘻の疑いのある患者さんのお話でした。
解剖学書でもう一度、内耳の図を確認しておいてください。
鼓膜の奥に、ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨・前庭窓と
一直線に並んでいるのが分かります。
耳を引っ張ったことによって直線的に、
せん断力が加わって前庭窓が破れたと想像できます。
腰痛や頭痛においても、
病態生理学に基づいた施術を追求していきたいと思っています。
ありがとうございました。
茨木英光