嚥下障害に対するリハビリテーションのひとつとして『メンデルソン手技』があります。
「喉頭挙上訓練」のひとつであり、誤嚥防止にとても有効なものであることが知られています。
しかしその手技を指導することはとても難しいと言われます。
訓練中には無呼吸となることから、気管支疾患など既往症にも注意しながら、手技に取り組むようにしなければなりません。
高齢者の誤嚥性肺炎のリスクに効果が高いメンデルソン手技について、どのようなものなのかご紹介していきます。
メンデルソン手技とは
『メンデルソン手技(Mendelsohn Maneuver)』とは、「メンデルゾーン手技」と呼ばれることもあり、嚥下障害に対する代表的なリハビリテーション方法のことを言います。
嚥下障害の訓練にはさまざまな方法がありますが、メンデルソン手技は「喉頭挙上訓練」と呼ばれるもののひとつです。
「喉頭挙上訓練」とは、患者自身の手で喉ぼとけ(喉頭)がもっとも挙上した状態で保持させ、喉頭挙上を意識させることによってスムーズな嚥下を目指すリハビリテーションです。
下顎と咽頭の間にある舌骨を前上方に動かすことができ、大きく喉頭挙上させることによって、「ごくっ」と飲み込む感覚を学習することができます。
またこの運動を繰り返し行うことによって、喉頭挙上を持続することができるようになり、咽頭を収縮させる力を取り戻すことができるようになります。
咽頭収縮力が高まることによって誤嚥しにくくなり、咽頭に唾液や食物残差物の残留がなくなり、誤嚥が起こりにくくなります。
嚥下のメカニズム
嚥下は飲み込む力のことをイメージしますが、食物が認知されることからスタートしており、歯の状態、下の運動機能などさまざまな動きによって行われるものです。
摂食・嚥下の一連の流れは、次の通りになっています。
1、先行期・認知期:食べ物を口唇に取り組む段階
2、準備期:食べ物を咀嚼する段階
3、口腔期:食塊を咽頭に送り込む段階
4、喉頭期:食塊を咽頭に通過させる段階
5、食道期:食塊を食道から胃へと送り込む段階
誤嚥しやすい高齢者などにおいては、『喉頭期』における喉頭(喉ぼとけ)の位置が低下していることが知られています。
喉頭の機能低下によって、嚥下する際の挙上量が不十分となり、誤嚥しやすくなります。
健康的な人が嚥下する際には、喉頭がいったん挙上され、下るようになっています。
喉頭を挙上させることによって、舌の後方部(舌根)が咽頭に送り込みやすくなり、スムーズな嚥下へと繋がります。
実際に喉の喉頭部分を手で触れた状態で嚥下を行ってみれば、このメカニズムがよく理解できます。
メンデルソン手技で有効となる嚥下訓練は、喉頭挙上量を拡大させることによる、咽頭収縮力の増加を目的としています。
メンデルソン手技の具体的な方法について
メンデルソン手技とは、喉頭が十分に挙上できない方に対して、喉頭挙上の感覚を掴んでもらうことによって、嚥下機能を回復させる方法です。
自身の手で喉頭挙上を保つようにし、この状態を一時的に保った後に、力を抜いて嚥下前の状態に戻すように指示していきます。
手で保っている間には舌骨と喉頭挙上・咽頭収縮させた状態になっており、力を抜くことによって甲状軟骨を最上位の位置から元の場所に戻ります。
この動きによって、食道の入口部分が開いている時間を延長させることができ、繰り返し訓練することによって、誤嚥を解消させることが可能です。
まず口に食べ物が入っていない状況で空嚥下を行い、その際の挙上運動を実際に手指で感じながら喉頭の動きを認識することから始めます。
喉頭がどのような動きであるのか認識した上で、実際にメンデルソン手技に取り組みます。
このメンデルソン手技は、嚥下に対するリハビリテーションとして、比較的容易に指導できるもので、また大変有効なものであると考えられています。
メンデルソン手技を行う注意点について
メンデルソン手技の具体的な方法に加えて、嚥下のメカニズムについてもお伝えしました。
嚥下訓練のひとつとして紹介されることが多い手技であり、高齢者に対して取り組まれることも多くなっています。
誤嚥性肺炎で亡くなる高齢者が多いなかで、メンデルソン手技のニーズが高まっていることは間違いありません。
ただしその方法やプログラムが確立されているとは言えませんので、高齢者などに対して正しく手技を指導できる施術者が求められています。
特にメンデルソン手技を指導することは難しく、訓練に取り組む間は無呼吸となることから、基礎疾患などに注意することが必要です。