マニュアルセラピーとは
マニュアルセラピーとは「徒手理学療法」と呼ばれることもある理学療法の専門領域のひとつであり、クリニカルリーズニングと呼ばれる臨床推論によって病態を推測し、最も適した施術を行っていく施術方法となっています。
痛みやコリ、痺れなど身体的な悩みを抱えた患者に対して、施術者だけではなく、患者本人やその家族、その他の医療に関わるメンバーなどとも共同しながら治療にあたる特徴を持っています。
一般的な施術や治療法においては、施術者自身が疾患を指定して対応していることがほとんどです。
しかしマニュアルセラピーで取り組まれるクリニカルリーズニングにおいては、筋や神経、関節、循環器など医学的な評価はもちろんのこと、患者本人の心理的な要因においても問診から明らかにし、適切な治療や手技を選んでいくことになります。
例えば、腰痛で悩んでいる場合、治療に取り組んでいるにもかかわらず、痛みが治まらなかったり、一時的に治まったとしてもまた再発してしまうことが珍しくありません。
特に痛みに対する対処療法である場合、根本的な問題が解決していないことが多いため、このようなシーンが少なくありません。
「年齢だから仕方がない」「様子をみましょう」と言われるばかりで根本原因が解決できないのであれば、医療に対する不信感にも繋がってしまいます。
マニュアルセラピーの場合、痛みが生じている炎症は、骨折はないのか、発熱は伴わないのか、安静時にも痛みは生じるかなど、詳しく観察していきます。
さらに原因として考えられる疾患が隠れていないか、別の部位に痛みや痺れなどは生じていないか、不安やストレスの強度はどうなっているかなど、総合的に判断したうえで適切な治療法をみつけていきます。
患者にとっては、何が原因で痛みやコリ、痺れが生じているのか、明らかになるために不安を軽減させることができ、どのような取り組みで症状を抑えることができるのか理解することが可能です。
マニュアルセラピーは患者にとって、かなり大きなメリットのある治療方法であると言えるのではないでしょうか。
マニュアルセラピーのクリニカルリーズニング(臨床推論)の考え方
マニュアルセラピーの手技・治療の考え方はクリニカルリーズニング(臨床推論)に基づいた高度なスキル・手技療法であると言えます。
運動療法に分類される理学療法においては、包括的に治療に取り組むことができるものとなっています。
単に「徒手療法」とする場合には、運動療法を含まないことが多く、これらは区別して考えられています。
しかし患者にとってみれば、治療や手技療法の内容については問題ではなく、あくまで痛みや痺れを取り除きたいということであることは間違いありません。
手技や治療法は患者にあわせた適切なものが行われるべきであって、疾患を選んで施術を行うことは本来の医療の形ではないでしょう。
そのような手技療法に取り組むマニュアルセラピーは、包括的なアプローチを行うために、理学療法として人体の構造的な側面と神経や筋肉などの機能からアプローチする側面があります。
これがマニュアルセラピーのクリニカルリーズニング(臨床推論)の考え方であると言えます。
そのため多種多様な症状や兆候に対処する必要があり、構造や機能、技術体系など、幅広いスキルを所持し、それらのアプローチ方法を熟知しておく必要があります。
マニュアルセラピーの現状
マニュアルセラピーは、冒頭からお伝えしている通り、クリニカルリーズニング(臨床推
論)によって適切な治療方法や手技に取り組むことになります。
このクリニカルリーズニングの方法にはさまざまなものがありますが、「Inductive (帰納的)」「Hypothetic-deductive (推論的)」と呼ばれるリーズニングが特徴的です。
「帰納的」とは、患者の状態を観察するなかで診断名を推測し、その診断名を確認するために評価を行っていく方法です。
施術者が今までに経験してきた施術や治療の経験やパターンから、診断名を確認できるためにスキルが高ければ高いほど、原因が掴みやすくなります。
「推論的」とは、さまざまな評価を積み上げていく中で、この症状はこの診断名ではないかと推論する方法を言います。
診断名を確定するまでにある程度の時間を有しますが、患者の状態にあわせた診断を行うことができるメリットもあります。
このようにマニュアルセラピーは患者に対して責任のある施術が行える方法です。
日本理学療法士協会においても理学療法士の資質向上に取り組んでおり、「認定理学療法士」「専門理学療法士」と呼ばれるマニュアルセラピーが増えています。