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肩関節の脱臼の仕組みと3つの整復法

肩関節のしくみ

肩関節は、上腕骨肩甲骨によって構成されています。
上腕骨の最も先端部分のことを上腕骨頭(じょうわんこっとう)と呼ばれる球状になっており、肩甲骨にある関節窩(かんせつか)と呼ばれるくぼみとが連結しています。

また肩甲骨を吊り上げて支えるために鎖骨が存在します。鎖骨の存在によって、肩甲骨がスムーズに動くようになっています。
上腕骨頭は関節窩の中で回るように機能できる仕組みになっていますが、股関節のように安定してはまり込んでいる訳ではありません。

むしろ上腕骨頭と関節窩の接触は浅くできており、不安定になっていますので軟骨組織や筋肉、じん帯などで支えられています。
肩関節を包んでいる軟骨組織のことを「関節唇」と呼んでいます。

このように肩関節は十分な軟骨によってスムーズに動かすことができるようになっています
が、逆に不安定な作りになっていますので脱臼しやすい部位としても知られています。

転んで手をついただけでも脱臼することがあり、肩関節内の上腕骨頭が骨折してしまう場合もあります。
そのような場合には、手がだらーんとしているような状態で、激しい痛みが生じてしまいますので、整復する必要があります。

肩関節の脱臼とは

肩関節は可動域が大きい特徴を持っていますが、それはかなり上腕骨頭と肩甲骨が浅いつくりになっているからです。
肩関節にある十分な軟骨(関節唇)と、関節を囲んでいる膜(関節包)によって安定させていますが、それでも外れやすい関節であることが知られています。
外部から肩関節や上腕に対して強い力が加えられることによって脱臼することが多く、日常生活の上でも転倒したり、交通事故にあったりすることによって生じることがあります。

肩関節脱臼

肩関節脱臼にはいくつかの種類がありますが、その中でも多いものが「外傷性肩関節脱臼」となっています。
肩関節に対して強い力で回転させたり、伸ばしたり、ひねったりすることによって、連結されている上腕骨頭が肩甲骨の外側に押し出されるような形で脱臼します。
肩の前方に脱臼する「前方脱臼」と、後方に脱臼する「後方脱臼」に分かれますが、ほとんどが前方脱臼となっています。

スポーツ選手に多く見られ、ラグビーやアメリカンフットボール、レスリング、武道など、競技中に相手との強い接触があるような場合に生じます。
またスキーやスノーボード、ローラースケートなどの転倒で、手をついた瞬間に脱臼することも少なくありません。

肩関節が脱臼してしまうと、痛みや腫れが顕著にみられます。上腕骨頭が外側に押し出されることから、肩関節に変形がみられ可動域が極端に制限されることになります。
神経が損傷を起こしていることが多くあり、しびれを伴うこともあります。

一度、肩関節の脱臼を起こしてしまうと、「脱臼グセ」と呼ばれる脱臼しやすい状態になってしまうことがあります。
脱臼を再発するたびに脱臼グセの傾向は強くなってしまいますので、筋肉を強化するなどして保護していかねばなりません。

肩鎖関節脱臼

肩の脱臼に種類には、「肩鎖関節脱臼(けんさかんせつだっきゅう)」と呼ばれるものもあります。
肩鎖関節脱臼とは、肩甲骨と鎖骨が連結している部分による症状を指しています。

肩鎖関節とはあまり馴染みのない関節です。
鎖骨を肩の方向に触れていくと出っ張る部分がありますが、この部分のことを鎖骨遠位端(さこつえんいたん)と呼んでおり、この先端部分にある関節を肩鎖関節と呼んでいます。

肩鎖関節脱臼を引き起こした場合、鎖骨遠位端が上方に出っ張る形で脱臼してしまい、肩に骨が突出していることが見た目で分かるようになります。
鎖骨部分が上に外れてしまって、肩鎖関節が連結していない状態になっているのです。

この肩鎖関節脱臼に多い原因も肩関節脱臼と同様に、激しいスポーツや転倒、事故などによる外部からの強い衝撃によるものとなっています。
簡単に脱臼してしまう構造となっていますが、肩鎖じん帯と呼ばれる強いじん帯によって支えられています。
そのため脱臼を生じさせてしまうと、このじん帯を損傷することが多く、強い痛みを生じてしまう原因となってしまいます。

肩関節脱臼に関わる整復法の種類

肩関節の脱臼を整復する方法にはさまざまなものがありますが、整体・整骨などでよくみられる整復法を3つご紹介します。

ヒポクラテス(Hippocrates)法(踵骨法)

ヒポクラテス(Hippocrates)法(踵骨法)とは、施術者の足(踵)によって脱臼している
肩を固定し、牽引・回転させながら整復する方法です。
施術者は患者の腋窩に足を当て、肩甲骨を固定しながらゆっくりと牽引していきます。
施術者の足底部を支点にして内転・内旋し、整復していきます。

足に入れる力加減に熟練が必要であり、無理に牽引してしまうことで、腋窩神経を損傷させてしまうことがあるので注意が必要です。

コッヘル(Kocher)法

コッヘル(Kocher)法とは、脱臼した健側の上肢を回転させながら整復するという方法です。

上腕を牽引しながら側胸壁に接近させ、牽引を持続しながら外旋させます。
手を緩めないまま、肘を正中面に近づけるように内転させながら屈曲させ、患側の手を健側の肩に持ってくるように内旋させ整復していきます。

最初の牽引の段階で痛みが生じますが、回転させている途中で腱板筋群が上腕を肩甲骨に引き寄せることによって、自然に正常な位置に整復されることが分かります。

ゼロポジション法

ゼロポジション法とは、脱臼している肩であっても痛みが少なく体に負担のかからない整復法であると言えます。

ヒポクラテス(Hippocrates)法は腋窩神経を損傷させてしまうことがあり、コッヘル法では骨そのものを損傷させてしまうリスクがあります。どちらの整復法も、熟練の技術を要します。
その点、ゼロポジション法は痛みなく自然修復できる整復法であると注目されています。

ゼロポジションとは肩甲骨と上腕骨が最も適切な位置にある状態のことを指しています。
肩のインナーマッスルである腱板筋群のバランスが最も取れており、上腕骨頭を肩甲骨に引き寄せられている位置になります。

整復においては仰向けの状態でゆっくり上肢を挙上させていき、痛みの生じないゼロポジションを探っていきます。
リラックスした状態でゼロポジションまで挙上させていくと、腱板筋群の働きによって自然に上腕骨頭を肩甲骨に引き寄せることができます。
無理に外側に力によって整復するのではなく、本来の腱板の働きによって修復させるものですから、組織を傷つけることや苦痛を与えることなく整復が可能です。

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